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  きものトラブル原因究明

  
Q1 箪笥の中の未着用の夏帯が部分的に黄色く変色。香料のような匂いがします
  
 

保管中に帯と一緒にしまわれていた匂い袋による黄変の可能性が高いと思われます。この症状に共通して見られるのは、


① 白地や淡地の商品に多く見られ、明るい黄色に変色するものが多いこと。
② 黄変部分には独特の匂いが強く残っている。
③ 布の重なる部分では、黄変が下まで及んでいるものが多い、その場合、素材や加工の違いによって、黄変程度に大きな差があること。
④ 黄変の周辺部分は、ぼやけている。
などの現象です。


この事例も、ほぼ同様の状況が観察されるので、匂い袋から出るガスの影響ではないかと考えますが、因果関係は科学的に解明されていません。ただ、匂い袋の使用状況で直接繊維に触れる使用例も見られます。また、顔料を使用した布や千代紙などの匂い袋は、白い紙に包んでから入れてください。


A1

 

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Q2 

きものが変色したので見てもらったら、虫干し中の太陽光による変色といわれました。原因と対策を教えてください  
  
A2
太陽光による変色かどうかの判断の仕方


(拡大画像)




① 生地の裏表の色の違い仕立て上がりの生地の状態で生地の裏まで見る事は困難ですが、仕立てを解 いて確認すると裏は変色していません。裏まで変色している場合でも裏と表で変色の程度にはっきりとした差があります。


② 縫い目部分の色の違い
変色している部分の色に注目すると、縫い目を左右に引っ張ると縫い目の中は変色変色せずに、縫い目で変色の境界線が見られます。染色品は光によって多少とも変色しますが、同じ状態で数時間以上光にさらされている必要があります。そのため虫干し中の変色事例が圧倒的に多いといえます。
対策としては直射日光下や窓際に長時間放置しないこと、また蛍光灯の出す紫外線によっても変色する事があるので、長時間の照射は避けるようにすることです。
 

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Q3 2年前に作った着物を初めて着ようとしたら、地色が段々状のムラになっていました。原因を教えてください 
  
A3
このようなトラブルがあれば購入時点で必ず気づかれるはずで、その段階ではなかったものと考えられます。よってこれは、保管中に徐々に変化して発生したものと考えられ、生地の残留物による変色の一種と推測されます。


段々状のムラを調べる時、縫い目を解いて変色の状況を見てください。生地のミミの部分まで変色していますか。このような場合には、原因としては、反物状態における残留物(精錬・染色などの残留物)が、経時変化によって染料に影響を与えたものと考えられます。


しかし、このような問題も、虫干しをしたり、引き出しを開けるなど、こまめなお手入れで大半は防ぐことができます。
 

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Q4柄の金彩だけが剥離してきました。原因を教えてください
  
A4
金彩がちょうど夏の日焼けの皮膚がめくれるようにような状態ではがれている場合は、重ね合わせによる接着不良が原因だと思われます。金彩が行われていない周りにバインダー(接着剤)を用いた顔料捺染が加工してある場合はまず間違いないと思われます。


このようなトラブルは、それぞれ単独の使用では発生しにくいものですが、この場合のように接着剤を重ね合わせて使用した状況では、素材が本来持つ性能と異なる挙動を示すために発生します。
 

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Q5 訪問着に緑色の斑点状のシミがでてきたのですが
  
A5
ご質問の斑点は、銅のサビである緑青と考えられます。その着物に金彩加工が施されていれば、まず間違いないと思われます。現在ではあまり使用されなくなりましたが、金糸目(柄の縁取りなどに施された金加工)に銅と亜鉛の合金である真鍮粉(ブロンズパウダー)を使用した場合にこの症状が見られます。
 
 

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Q6 1年前に購入した白生地が黄変していました。
  
A6
白生地が黄変する原因はいくつかあって特定する事は困難です。絹質の変化によることもあれば、白生地を生産するときの加工剤の影響、また、白生地の保管環境によっても変色します。それを修正できる場合ともとの白度まで復色できない場合があります。
白生地が黄褐変する原因は加工剤(残留物)だけでなく、次のような保管環境が大きく影響します。


① 太陽光線や蛍光灯の影響
② 蒸れる状態の影響(白生地の重ね積は内部が湿度によってぬくもりを持つ)
③ 暖房ガスやタバコの煙の吸着の影響
④ 昼と夜の温度差のある部屋(暖房や冷房の部屋、居間)での湿度の影響などです。
虫干しするとき、白生地にも風を入れてください。
 

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Q7喪服の帯の全面に白い粉が発生しています
  
A7
これは粉吹きと呼ばれるものです。粉吹きの特徴として、次の現象が挙げられます。

① 先染品(特に喪服帯に多い)に発生する。
② 寒い季節に発生する。
③ 白い結晶状のものが発生する。
④ この結晶状のものは、熱(ドライヤー程度の熱でよい)をかけると溶解する。
⑤ この結晶状のものは、水に不溶で石油溶剤に溶解する。


粉吹きが発生する理由については、精錬で使用した石鹸成分が脂肪酸(水に不溶性)に変り、温度が低くなると再結晶するという説がありますが、現在のところ、十分に解明されていません。
 

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Q8 しまっておいた留袖を取り出したら、金彩が包んでいたたとう紙に付着して取れてしまいました
  
A8
原因は、保管中に使用した防虫剤と、金彩のバインダー(接着剤)が反応して軟化し、それが打ち合い状態(重ねて置かれた布などの柄が他面にもくっついてしまう事)でたとう紙に付着したもの、つまり防虫剤による金彩剥離と考えられます。


絹の着物は、精錬前の生糸と違い、精錬後の絹糸は、虫が食べる害が少ないものです。したがって仕立てあがった着物の場合には、ウールの商品ほど多くの防虫剤を使用する必要はないと思います。また、違う種類の防虫剤を一緒に使う事は絶対に避けるべきです。
 

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Q9 帯を箪笥から出したら、たたんだ状態で柄が密着し、無理にはがさないと取れません 
 

 

A9
原因は、柄部分に使われていたラッカー箔が保管中に使用していた防虫剤と反応して溶出し、それが重なり合って密着し、再硬化したものと考えられます。


これは防虫剤によるラッカー箔の溶出です。

帯様の模様箔(柄箔)にはラッカーで色柄を表現したものが使われています。ラッカー箔と呼ばれるものがまさにそれです。
ラッカーはシンナーで容易に溶けることはよく知られていますが、防虫剤のガス成分においても、その濃度やガスに触れる時間によって、徐々にラッカーの軟化、溶出が進む事があります。


このトラブルの予防法は多量の防虫剤を使用しないことです。
 

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Q10着物を箪笥から出したら、ぼやけたように変色していました。 
  
A10
このようなトラブルの多くは、箪笥に入れてから相当長い期間を経過しているもので、変色の原因は箪笥の中に蓄積された酸化窒素ガス(光化学スモッグの原因)や亜硫酸ガス(大気汚染部室のひとつ)、暖房器具の燃


(拡大画像)

焼ガスなどが生地に吸着し、染料色素を分解するためと考えられます。


つまり、ガスによる変色です。家屋の密閉構造など住宅事情が変化した比較的最近に多く見られるトラブルです。多くの場合、保管中のたたみ目の外側(隙間があってガスの出入りがしやすいところ)が変色します。


防止対策として、虫干しをこまめに行い、箪笥の中の空気を入れ替えしていく方法が良いでしょう。
  
 

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この記事は「婦人画報社」1995年版・2004版から引用しています